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自治体が文化事業に投資すべき理由は何か

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120728/lcl12072800150000-n1.htm
橋本さんが文楽を観た感想が話題になっているようですが、自分も文楽って1回しか見たことないんですが、「感想」としては別におかしな事はないと思うんですよ。古典芸能なんかハイコンテキストの最たるもので「わからないけどなんか面白い」と思った人は勉強していくし「わかんないしつまんない」と思った人はもう見ない。それでいいと思います。「勉強不足」とか上から目線で言い出すのはオタクの発想です。そこにいいとか悪いとかはないと思います。

言うまでもないですが、たかが一観客の感想がここまで取りざたされるのは、自治体の長だからで、個人の好みによって文化事業の援助額を決めようとしているかに見えるからですよね。

これがここまで問題になるのは、そもそも「自治体が文化事業に投資すべき理由は何か」ということが曖昧なまま来ているからではないでしょうか。援助を受ける方も「文化的だから当然」と思っていて論理武装できておらず、そのため「行政長の個人の好み」に対抗できる論理軸がなくて、自分の団体への利益誘導としか見られないのではないでしょうか。

地域という枠組みで考えると、3つの視点が考えられます。
1. 地域住民の、娯楽、文化的興味を満足させる
2. その文化に興味のある人を、他の地域から呼び寄せる
3. その文化に興味のある他の地域の人に、その地域に関心を持ってもらう

1. 地域住民の、娯楽、文化的興味を満足させる

これについてはあまり説明する必要がないですね。ただ重要なのは、地域住民に十分に娯楽、文化的興味の対象として十分な価値があれば、十分な収益があるはずで、そもそも援助する必要がないのではないか、援助を受ける必要があるのは価値がないからではないからという議論になることです。これは文化事業に限らず、公共交通など民間組織に対する公的支援全体に言える問題ですが。

2. その文化に興味のある人を、他の地域から呼び寄せる

観光的な視点です。文化そのものではなく、観光による周辺地域の振興を目的として行うもので、古くは伝統文化の保護であり、新しいものでは多くの地域型アートプロジェクトがそれに該当します。重要なのはライブでその場で観なくては意味がないものに投資する必要があることです。

3. その文化に興味のある他の地域の人に、その地域に関心を持ってもらう

文化外交的な視点です。これは2.にも似ていますが、もたらされる結果がかなり間接的、長期的なものになります。2.とは逆に、拠点はその地域になければいけないが、興行は他の地域で行うことが必要になります。

これは話が大きすぎる例になりますが、例えば20世紀初頭の西洋での日本美術ブームには国が博覧会に積極的に投資したことが深く関係しており、仮に西洋で日本美術があれほど深く認知されていなければ、太平洋戦争で京都、奈良が空爆されることもあったのではないかと思います。

最近の個人的な例では、グルジア国立バレエの公演を観たのですが、ここの芸術監督ニーナ・アナニアシヴィリさんは、生まれはグルジアでロシアのポリジョイ劇場のスターダンサーだったのですが、グルジア大統領に依頼され、母国のグルジア国立バレエの芸術監督に就任。自分はバレエに興味があっただけで、別にグルジアには何の興味もなかったのですが、グルジアについて少しですが興味をもつことができました。


結局のところ、自治体に投資してもらうには、文化的な優劣や個人の好みの話をしても結局埒があかないだけで、自治体側がどのような基準をもって投資を行うかある程度明確化し、その基準において、文化団体側がどの程度の価値を産み出せるかという点をアピールするというある意味ドライなやり方しかないのではないかと思います。それが文化的かというと別ですけどね。