Kバレエカンパニー 第九

Kバレエの熊川哲也振付のベートーベン交響曲第九番。実のところ自分は観る直前まで第九と運命を間違っていたくらいクラシック知らないのであった…

本作はとにかく美術が良い。オブジェを吊り下げるというのはコンテンポラリでは割と常道な演出だと思うが、オブジェの異形感が半端でない。獣的な何か、水生生物的な何か、植物的な何かなのだが、何か正常でない物を感じさせる。

セットの破壊された構造物の天井的ななにかと合わせると、これは壊れた原発の炉心部の物語で、原子力という偽りの神を鎮めるため、放射能によって異形と化した陸の動物、海の生物、植物が生け贄として捧げられる。そしてこのダンスはその奉納の踊りというストーリーが想像できてしまうほどである。

この作品自体は初演が2008年なので、最初から現在の原発事故を想定した物ではもちろんないが、初演からこの美術なのだとすると、なかなか恐ろしい物がある。

そしてその偽りの神に支配された世界を解放するために地上に降り立った救世主、熊川哲也。というのが比喩ではなく、わりとそのまんま展開される第四章。そしてあの最後によって永遠に続く救いのための戦い。

ここまで自らのスター性という物を真っ正面から意識してバレエ作品を作るというのは難しいだろう。この作品はKバレエと熊川哲也という組み合わせ以外ではできないと思われる。その意味でかなり面白い作品だった。