ディン・Q・レ展:明日への記憶

全く知らないアーティストだったが、非常に面白い展覧会だった。

夏は終戦記念日関連ということで、美術館も戦争に関する企画がそれなりにある。もちろん太平洋戦争を振り返ることは意味があるのだが、現在でも続く一般論としての「戦争」を考えるうえで、太平洋戦争というのは題材としてナイーブすぎる部分もあるのではないかと思う。もちろん我々が当事者国だから。

その意味でディン・Q・レがテーマとするベトナム戦争は、自分のような団塊ジュニア世代にとっては近くて遠い戦争であり、戦争とは何かについて考えるうえでいい距離感なように感じた。

ドキュメンタリーの手法を用いたビデオ作品が多く、構成も工夫されていて30分近い時間の作品でも飽きずに見られる。アーティスト的ではないかもしれないが、飽きずに見られるのは良い。

個別に作品にコメントすると、ヘリコプターをめぐる話は、どうしても今はドローンをめぐる話に見えてしまう。ヘリコプターを「人が扱うべきではない道具」と言う戦争体験者の話を論理的ではないといって切り捨てられるのか。

戦時中のアーティストをめぐる2つの話も非常に面白かった。「戦争時にはもちろん毎日無残な光景を見た、だからこそ無残ではない人を描くことが求められていた」というのはそれはそれで事実だろう。そのうえで作家自身は「戦争に協力するため自身の表現を捨てた人々」と彼らを評している。

当時共産党の考えに相容れなかった作家が、結果として抽象画を残したという話も面白い。もちろん直接的に非難すれば殺されるというのもあるだろうけど。日本の「戦争画」とはまた違ったレベルの議論になっている。

日本人によるリエナクトメントという戦争の再演、傍目からは軍事オタクのコスプレでのサバゲーにしか見えない活動を追った作品も面白い。

確かに滑稽ではあるけど、彼と自分はほぼ同年齢であることもあり、その活動が戦争を知ることになるのではという認識そのものはすごく理解できる。その一方で「単にかっこいい」というのも間違いなく事実だろう。

そもそも美術館に行ってディン・Q・レの作品を見てベトナム戦争についてコメントすること自体が「軍事オタクのコスプレでのサバゲー」よりもさらに滑稽なことだと思う。