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"UX"という言葉は傲慢である

UXという言葉がここ5年ほどデザイン界隈でよくみられるようになりました。自分自身はエンジニアなのでデザイナーではないのですが、この言葉にどうも違和感を感じます。"UI"はいいんです。"UX"が問題です。そのあたりをちょっとまとめてみます。

UXは顧客価値の言い換えに過ぎない

UXという言葉の定義は一般に「商品やサービスからユーザーが得られる体験」とされます。では逆の質問をしてみましょう。商品やサービスからユーザーが得られる価値で、UXではないものはなんでしょう。価値を自分なりに3つに分解してみました。

1) 便利: 時間が短縮できる。難しかったことが簡単にできる
2) お得: 同じ価値を提供するものに対して、価格が安い
3) 楽しい: 体験自体が楽しかったり、面白かったりする

UXというと3)のように思えますが、ほとんどの議論では1)も含みますし、2)も含むと言っている人もいます。ようするに全部なわけです。

商品やサービスからユーザーが得られる価値をマーケティングでは顧客価値と言ったりします。要するにUXとは顧客価値の言い換えにすぎません。

"UI/UX"という言葉の奇妙さ

"UI/UX"もこの文脈でよく使われますが、上記を踏まえるとこれはかなりおかしな言葉であることがわかります。UIは顧客価値を作る要素の1つではありますが、それはあくまで一部でしかありません。

UIが顧客価値に占める割合を軽視すべきではないとか、顧客価値を考えてUIを設計しようという議論は理解できますが、決してイコールではありません。"UI/UX"という言葉は、この点を誤認させる可能性があります。

売れるゲームのUI/UX 制作現場の舞台裏という本があって、この中で面白い点に気が付きました。この本はヒットゲームの企画やデザイナーに対するインタビューで占められているのですが、インタビュアーが"UI/UX"という言葉を使用するのに対して、製作者側はUIという言葉は使用しても、UXという言葉はほとんど使用しません。

ゲームにおいては、上記の顧客価値のうち3)が全てです。ゲームデザイン、シナリオ、プログラム、サウンド、そしてもちろんグラフィックの全てがUXを実現しています。それを考えると、UIだけをUXの要素として重視することに違和感を感じるのは当然ではないでしょうか。

みんな商品企画がやりたい

このような言葉ができた背景を考えると、率直に言えばみんな商品企画がやりたい。そのためには俺の立場の考えが大切なんだとアピールしたいだけなのではないかと思います。

デザインという言葉はもっと悪質で、実務上ではグラフィックやUI設計を指すものとして使われることが多いと思いますが、UXデザインという文脈によってはマーケティングや企画もデザインみたいに使われます。

じゃあ全てのデザイナーにマーケティングや企画のスキルを要求してもいいんですかと言われると、多くのデザイナーは困るのではないかと思います。逆にグラフィックの全くできないデザイナーもいていいことになりますが、それでデザイナーと名乗ることに違和感を感じます。

先人に謙虚に学べ

自分の専門分野に閉じずに広く学ぶこと自体は非常にいいことだと思います。そういう分野には既に先人がいていろいろ研究されているわけです。

それらの先人に対して自分の分野の優位性をアピールしたいあまりに、自分たちの業界の言葉で新語を作ったり、定義の拡大解釈を行う。UXという言葉はそういう傲慢な言葉なのではないかと思います。

先人に対する謙虚さはやはり必要なのではないでしょうか。