猪熊弦一郎展 猫たち

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猫というキャッチーな画題でありながら、猪熊弦一郎という作家の歴史をきちんと知ることができるいい展覧会だった。

猫の絵がほとんどの展覧会であるが、年代に関わらず描いているので、具象期、具象と抽象の間、それが結実した抽象という流れがこれだけで見えてくる。

面白い絵はいくつもあるのだが、最初に面白かったのは従軍画家として中国で描いた作品。制作が1941年なので、日中戦争の真っ最中である。従軍画家だから軍人の記録である。それなのにこのポップさはなんなんだ。むしろ楽しくなってくる絵である。

1940年代は具象の猫である。猫がセザンヌのリンゴのようにあらゆる描き方で描かれて表現の実験になっている。

1950年代の絵は日本の作家全般に独特の暗さと力強さがある。それは敗戦とそこからの復興、それまでの価値観の崩壊と再構築という思想的な部分が強い。色や形だけでなく画題もそうなる。

しかし、猪熊弦一郎の場合、色や形は同時代の暗さと力強さがあるのだが、描いているのは猫のにらみ合いだったりする。そのギャップが面白い。

1960年代になり、ニューヨークで抽象表現主義と出会う。1950年代の陰鬱な流れに対して、この「抜けた」感じが半端なく気持ちいい。しかし、そこにはこれまでの形や色や具象へのこだわりからの確かな一貫性がある。

新聞で絵を見た時はピンとこなかった絵が、本物をみると非常に良かった。猫以外の絵もみてみたくなった。丸亀猪熊源一郎美術館は香川ですか。GWに気が向いたらだな。