- 作者: フレデリック・ラルー,嘉村賢州,鈴木立哉
- 出版社/メーカー: 英治出版
- 発売日: 2018/01/24
- メディア: 単行本
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本書や紹介記事を既に読んでいる人も多いと思うので、読んでいることを前提に、気になったポイントについて書きます。
生産性向上を目的とした時点でティールではない
本書でも述べられていますが、"組織改善による生産性向上"という考え方が既に達成型の考え方です。その意味では真面目に生産性向上を考える人にはにはむしろ向かない本だと言えます。
人は正しいコミュニケーションができない
人への信頼でルールをなくす一方で、紛争解決やミーティングの方法などは過剰なくらいにルールを作ることが推奨されます。これは "正しいコミュニケーションができる"という点については人を全く信頼していないということです。
ある意味小学校の道徳的な部分もあり、そのレベルまで自分たちは不完全であると受け入れられるかどうかという点は重要です。
"3つの条件"は持続可能の十分条件ではない
"3つの条件を満たしていれば必ず持続可能な収益を確保できる組織が作れるか"という命題は、"多くのベンチャー企業の立ち上げ時は、3つの条件を満たしているが失敗する"という点によって否定できます。
ティール型であるだけで持続可能であるとは言えないように思えます。
ボトムアップで競争することは否定しない
目標も予算もないとは言われていますが、それはあくまで"トップダウンで"の話です。売上や予算をチーム毎に全て開示することにより、ボトムアップで競争することは否定していません。
またトップダウンの評価はないですが、同僚からのボトムアップの評価で給与が決まることから、他者からの承認による競争は発生します。
競争のない平和な組織を目指しているわけではありません。
株式会社という仕組みとは本質的な齟齬がある
本書でも詳しく述べられていますが、株式会社という仕組みはティール組織と非常に相性が悪いです。
株式会社という仕組みは、会社の存在目的と、金銭的利益を分離し、会社の所有権を小口化して売却することで資金調達を行う仕組みです。株主が存在目的より金銭的利益を追求することは、全く正しいことです。
所有権の売却というのは、あえて人で言うと奴隷化です。お金を借りることとは次元が違います。株式会社というのは実は本質的問題なのではと思っています。
それでも"ポスト資本主義"を目指す
いろいろ書いてきましたが、この本の思想そのものには非常に共感します。それは"ポスト資本主義を目指す現実的なアプローチ"であるということです。
ポスト資本主義はポストモダン以前からも、共産主義等等いろいろ行われてきたわけですが、結局のところこれまで残念ながら成功したものはなかったわけです。
ティール組織のこれまでと違うところは以下ではないかと思います。この点で単なる理想論ではない現実なアプローチになっていると思います。
- 資本主義での権力者である経営者層に焦点を当てている
- "達成型組織"を明確に否定している
- 現実の企業事例を基に具体的なルールにまで踏み込んでいる
- 考えうる疑問の多くについて真摯に説明している
- 国家という大きな単位の変革ではなく、組織単位から適用可能である
ここに出てくる事例はGAFA等の誰もが知っている注目の大企業ではありません。自分はどの会社も知らなかったです。事例も少なく一般化するにはかなり難しい。
ただそれでもこれだけ注目を集めているということは、現代の資本主義は何かがおかしいと、経営者層も含めて多くの人が疑問を持っているということではないかと思います。