内藤正敏 異界出現

https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-3052.html
この人はまず経歴が面白いです。

  • 大学では化学を専攻する理系。大学の写真クラブから写真に入る
  • 初期は"SF写真"で有名になり、ハヤカワSFの表紙にも多数採用される
  • 即身仏に出会ったのをきっかけに、山伏として出羽三山で修行
  • 修験道、イタコ等東北の民間信仰をテーマに写真を撮るようになる
  • 上記の民間信仰について著書や論文を書く民俗学者にもなった

まずは初期の"SF写真"ですが、これはこれで時代的な部分もあって面白いんですが、結果としてハヤカワSFの表紙になったのがすごい。

その1960年代のハヤカワSFが30冊ぐらい展示してあるんですが、装丁がシリーズとしてこれだけカッコいい文庫があろうかというレベルのカッコ良さです。マイナーな作品ではなく「星を継ぐもの」とかの超メジャー作品の表紙です。これ古書だと恐ろしい値段なのでは。

しかしそれだけ実績がありながら、即身仏に出会ったのをきっかけにそれを全て辞めてしまい、一見真逆のように見える民間信仰に被写体を切り替えていく。もともと宇宙といったものをテーマにしていたこともあり、そこは特に違和感はありません。

民間信仰的なものをテーマにする美術家自体はそれほど珍しくない。この人の凄いのは、そこに学問的な調査や考察の理論を構築し、民俗学者としてもきちんと活躍するようになったこと。

対象について研究者のレベルまで調査し、その表現方法として、情感に訴える写真と、理性に訴える論文で両方プロフェッショナルであるという人はほとんどいないのではないかと思います。もちろん、対象が"信仰"だからこそ有効な手段なわけです。

宗教研究者としてある意味理想の生き方なのではないかとすら思います。