ポロック展

かなり衝撃的な展覧会であった。ポロックの絵自体を観るのは始めてではない、むしろいろんな展覧会の一部として何度も観ているが、美術史的に革新的であることはわかるが、好きというわけではなかった。率直に言えば今回も絵そのものが衝撃だったわけではない。あえて言うなら、現代美術の業の深さのようなものをポロックの生涯に見たのである

ポロックも最初から有名な流し込みの手法を用いたわけでは当然なく、最初は具象と抽象の間のような絵から始まる。20代の作品にもかかわらず圧倒的に暗い。しかし作品としてはうまい。そのうち従来の絵の上に流し込みを行うようになり、最後には有名な流し込みだけの絵で、絵画から具象性を取り除くという革命を起こすのである。

この展覧会でわかった最も衝撃的な事実は、有名な流し込みだけの絵を描いていた期間は、この後ほんの1年程度に過ぎないということである。ポロックはその後は黒を主色とした、具象寄りの絵を描くようになるが、世間からは退化したとみなされて評価されず、絵が描けなくなって、若くして飲酒運転で事故死する。


ここから感じたことのまず一つは、愚直なまでの革新は自己模倣を認められないということである。たぶんポロックがもっと器用な生き方ができたなら、そのあと10年は流し込みだけの絵だけを描いていても十分巨匠として生きていけただろう。実際、そういうアーティストはたくさんいるし、必ずしもそれが悪いとも思えない。しかし、彼は愚直なまでに革新的であった故に、自己模倣に耐えられなかったのではないか。

もう一つは、具象と抽象とはそもそも何かという点である。ここで具象を○△□などの人工形状も含めて考えるとする。しかし、ポロックの流し込みも、色彩であったり動きをコントロールしているのは作家なわけで、その意味で任意の形状を選択してるわけだから、純粋な抽象なのかというと疑問が残る。たぶん彼にとっては流し込みもその後の作品も自分がコントロールしている形状という意味では変わらなかったはずなのだが、世間はそこを抽象から具象に戻ったと捉えて評価しなかった。早すぎたのだと思う。

正直ポロックってもっとパンクな明るさのイメージがあったので、いろいろ考えさせされた。