かぐや姫の物語

間違いなく傑作。だがなぜ傑作なのかを説明するのは難しい。

物語は驚くほど竹取物語そのまんまである。もちろん細かい理由付けや、現代的な心理描写の脚色はあるが、物語の大筋は全く変わらない。かぐや姫が月に帰る理由が解き明かされたりもしない。

古典の再解釈という意味では、女性の抑圧と解放という視点はあるものの、それ自体はある意味定番の再解釈の方法論で、それ自体が目新しいわけでもない。

造形的にも宮崎作品のような奇抜な特色があるわけでもなく、墨で書いたような絵のアニメーションも、山田くんのころからやっているわけで目新しいわけではない。

この作品の凄いのは、それら全ての要素が個別には見たことのある要素でありながらも、それらの組み合わせがあまりにも完璧であることだと思う。

その結果、誰もが知ってはいるが、普通に読んだら全く感情移入できない「竹取物語」にびっくりするほど感情を揺さぶられる。もちろん死を過剰演出するとかそういう無理矢理泣かせ要素なしで。その事実が凄い。

古典を現代の文脈で表現し直すこと自体はいろいろな方法によって行われているが、その中でも原作の有名さと、その感情移入しにくさに対し、あらすじを全く変えずにここまで印象を変えたという意味で、かなり凄い作品だと思う。