ファスター / カルミナ・ブラーナ

もうすぐ新国立劇場バレエ団を去ってしまうビントレー作品フルコース。

ファスターって何かと思ったらそのまんまfasterらしい。スポーツがテーマのダンスで、ロンドンオリンピックにインスパイアされた企画。便乗企画とも言えますが、ここまで真っ正面からスポーツというテーマに取り組むと清々しいです。

ちなみに元の題名は「より早く、より高く、より強く」だったらしいのですが、IOCからケチが付いたそうです。さすが天下のIOCですね。

一部はスポーツコスプレしてのスポーツの動きに発想を得たダンス。二部が一転してメロウなトーンになって、これは挫折みたいなものかと思ったが、怪我らしい。このテーマは面白いですね。

ダンス的に面白いのは第三部のひたすら走る陸上競技パートで、ものすごく独特な繰り返しのようで繰り返しでないステップです。そしてオチに使われるのが競歩という…

オリンピックって文化で他国を歓迎みたいな意味で、芸術方面にもそれなりに国から金が流れてくるらしいです。この企画がそれと関連あったかは知らないですが、どうせもらうならこれくらい開き直ってしまった方が面白いかもしれません。


カルミナ・ブラーナですが、名前は知らなくても冒頭だけ聞いたら「あああれね」っていう曲です。冒頭だけでなくて最初から最後までインパクトありまくりの曲で、おまけに生オケ生合唱付き。

これが演出、衣装、振付、ダンスとどれか一つが欠けても曲に飲まれてしまうように思える有名だけにむしろ難しい曲と思うのですが、期待以上に良かったです。

春のシーンで妊婦(もちろん本当の妊婦ではない)が出てきたのも驚きましたし、オリエンタルな感じから、いきなりブロードウェイ風になるのもびっくりしました。

そしてこれは意図した物かどうかわからないのですが、茶髪で黒い衣装だと日本の学ラン着たヤンキー風になってしまうのも驚きました。コンドルズか。

1995年初演らしいから、そんなにまだ日本意識してなかったと思うのですが、日本公演時に変更したんですかね。

あとメインの客演の男性ダンサーは確かに重要なヒロインとの恋愛パートを踊るのですが、舞台に出ている時間の9割はブリーフ一丁でした…いやこれも本当にブリーフではないんでしょうが。

まあイギリスっぽいです。モンティパイソン的な意味で。

そして曲は冒頭のフレーズに最後戻ってくるのですが、あの冒頭はこういう意味だったのかと最後にわかるという。まあ良くできています。

なんだか無節操なようですが、それでも一定の統一された品の良さは保っており、無節操にありがちな安っぽさとか、性をテーマにしたダンスのくどさも感じません。ダンスが凄いからというのが大きいですが。

ビントレー作品はいくつも観ていますが、個人的には最も良い作品の一つだと思います。


しかし、新国立劇場の芸術監督は4年が任期で、かつ現状もバーミンガムとの兼務だから仕方ないとはいえ、ビントレーがいなくなるのは寂しいですね…

来期の新国立劇場バレエ団のラインナップも正直「普通の日本のバレエ団」になってしまったように思いますし。

ビントレーはクラシックもできて、コンテンポラリも押さえてて、バレエファンにもうけるコンテンポラリを、バレエ団の魅力を生かして構築できるという意味で、すばらしい芸術監督だったと思います。

日本でもバレエの振付をされる方もいますし、作品も何度か観ていますが、やっぱりバレエとコンテンポラリに溝がある振付が多い気がします。

たぶんそれは、コンテンポラリという選択肢が最初からある中で、あえてバレエをやっている人は、やはりバレエが好きなのだと思いますし、観客もそこを期待していて、当然売上げも必要という点もあると思います。

だから、海外の有名バレエ団や大スター、ベジャールとか評価の固まった大御所の演目以外は、バレエ団がコンテンポラリ寄りの演目をやるのは難しいのでしょうね。

クラシックはクラシックでいいですし、コンテンポラリはそのカンパニーの公演を観ればいいのですが、その中間の選択肢も今後もあるといいなあと思います。