杉本博司 ロスト・ヒューマン

絶望に満ちた展覧会だった。

東京都写真美術館のリニューアル後初展覧会、しかも作家は杉本博司ということでチケット売り場はかなり混んでいたが、中はそれほどでもなかった。

面白いのがメインの広告ビジュアルが劇場シリーズ新作なので、ああ過去のシリーズの回顧展なのかなと思うと、完全に裏切られる。そもそも写真ですらない。つまらなければ困るがこれはこれで面白く、いい意味でしてやられた感がある。一応2階には従来からの写真の劇場シリーズと仏の海もある。

"ロスト・ヒューマン"シリーズを端的に言うと星新一である。"人類が良かれと思ってやったことが裏目に出て結局人類は滅ぶ"という小話を33話、その関係者の最期の短い文章と作品で構成する。作品と言っても新たな制作物ではなく、いろんな物を基本的に無加工で文脈に沿って組み合わせたインスタレーションである。

確かに写真ではないが、これはこれで杉本博司らしさを強く感じた。この人の写真は徹底的にコンセプチュアルというか、冷徹に自分の文脈において物を再構成するという点が徹底している。その物に対する態度が似ていると思った。

震災以降、日本のアートは良くも悪くもナイーブになった。先に書いた鴻池朋子の立ち位置はまさにそうで、そうならざるを得ないし、それを貫く真摯さは素晴らしいと思う。シン・ゴジラだってエンターテイメントとして非常に優れているのは確かだが、そこにあるナイーブさが当たり前のように評価されている面もあるだろう。

"ロスト・ヒューマン"の人類の滅び方は、個別の話は社会問題を啓発する一方、全体として何か方向を持っているわけではない。資本主義の行き過ぎによるものもある一方で、反資本主義の行き過ぎもあったりする。最後に自分自身をコメディアンとするところは実に面白い。クールである。

これは考えすぎかもしれないが、日本の過剰なナイーブさに対して違和感があって、もう少しクールに距離を置いてみようぜというメッセージがあるのではないか。

同時開催が世界報道写真展というのは実に皮肉な感じがする。アートが終末を弄ぶ一方で、世界には本当に地獄に生きているとしか言えない人々がいる。多少ナイーブになったところで、アートはそれらに対して何かできるのだろうか。そこには絶望的な距離しかないように思う。