ムンク展

混雑はしていたが"叫び"もきちんと見られるし、黄金期の1890年代の作品は多いしと充実した展覧会だった。

有名な"叫び"は同時代の作品の中では異色な作品のように思う。人の表情がこれほど出た作品は他にない。ほとんどが無表情で正面を向いていたり、物憂げだったり、苦痛をこらえていたりと、内に秘めた思いのある作品のほうが多い。

その内に秘めた感情が、背景の世界の色となって表れている作品が多い。全体としては激しさよりも不穏な静寂を感じさせる。そこに不安を感じるのが普通だろうが、自分はむしろ安心感を感じた。

位置づけとしては象徴派のようだが、むしろゴーギャンゴッホのようなポスト印象派のように思う。ベーコンのように見える部分もあり、これが1970年の絵画と言われても違和感のない時代を超えた完成度がある。

ムンクは1908年に精神を病んで一度療養生活を送る。退院後はノルウェーでの評価も高まり、壁画を描いたりする。それまでは酒に溺れていたようだが、退院後は酒もやめて健全な生活になったようだ。

背景を知った上での主観によるものかもしれないが、退院後の作品はそれまでにあった不穏な闇の力が抜けてしまったように思われる。精神を病んで亡くなってしまった作家も多いので、良い作家は長生きはして欲しいが、芸術家というのは難しいなと思う。