プロテスタンティズム

宗教史というとっつきにくい分野ではあるが読みやすい。西洋近代史の基礎教養として読んでおいて損はない本だと思う。

宗教史の本は他にも多少読んでるけど、まあ基本読みにくい。そもそも基本的な教義を解説本でしか読んでないのに、その解釈の歴史とか言われてもわからんのが当然である。

この本の読みやすいのは、教義の話はそれほど多くなく、それを支えるシステムの話に焦点を多く当てているという点だと思う。システムというのは、例えば教会や組織構造、そして政治や社会との関係性である。こちらは具体的なのでそれなりにわかりやすい。

これは宗教改革が、有名な贖宥状(免罪符)というシステムに対する疑問から始まったからという部分はある。とはいえ歴史的にはイエスユダヤ教のシステムに対する疑問から始まり、あくまで初期はユダヤ教の一派閥でしかなかったのだ。

既存システムの疲弊こそが新宗教のゆりかごなのだと思う。だからこそシステムの理解が重要となる。

この本で一番興味深いのはドイツにおける保守主義としてのプロテスタンティズムの話だと思う。ドイツにおいては教皇との関係は切断されたが、国家と宗教の関係性は維持された。そのためプロテスタントは新しい保守となった。

ドイツが統一後に近代化のためのナショナリズムの象徴としてルターを"再発見"したという点は特に面白い。当然ここから思い出すのは日本明治政府の話で、ドイツがルターを再発見したように、ドイツを近代化の手本とした日本は神道を再発見した。この文脈が理解できたのは良かった。

いやいやプロテスタンティズムと言えば、リベラリズムで資本主義でしょうというあなたにも、もちろんちゃんと書かれている。自分みたいに単純だと、啓蒙思想自由主義もここから生まれたとつい勘違いしてしまいそうになるが、そこについてはちゃんと釘を刺してあるのも良い。

良い本で類書もあまりなく、発行も2017年なのになぜ新刊も電子書籍もないのかと思っていたが、著者はこの後研究不正が認定されたとのこと。残念である。