移民に反対するのは排外主義なのか

移民に反対するのは排外主義なのだろうか。新聞等を読んでも、ネットの言説を見ても、移民に反対するのは極右の排外主義によるポピュリズムとひどい言われようだ。本当にそうなのだろうか?

移民政策については以前から問題として興味があったが、まともな本を読んだことがなかったので以下の2冊の新書を読んでみた。あまり考えて選んだ本ではなく、Kindleで読める新書で評価のまともそうな本を読んだだけだが、意図せずして異なった視点の本で良い選択だったのではと思っている。

軽く本の紹介をしておくと、"移民の経済学"のほうは移民に関する様々な一般的に疑問に思われる問題、たとえば"移民によって賃金水準は下がるのか"とか"移民によって地域の治安は悪化するのか"といった問題に対し、移民の多い欧米における様々な調査結果を紹介した本。日本でないのは単に日本は外国人労働者の比率が他国に比べて少なすぎて研究が少ないから。

この本の面白いのは、大抵のテーマについては肯定と否定の違う結果が出てくることで、それは統計の取り方に依存する部分が大きい。もちろん学者の主義主張もあるだろうが、この本でも指摘されているのはそもそも移民問題に興味のある学者は自身も移民であることが多く、移民賛成のバイアスがかかる可能性があるということ。

それでも多くの調査でほぼ共通ではないかと思われる事項もあり、移民と直接的に競合する地位の労働者については、移民にその職を奪われるような影響はないわけではない。しかしそれらの職業による賃金の低下は見られないという結論である。

ただ本来であれば賃金上昇という形で需給ギャップが埋められるべきであった仕事が、低い賃金でも労働する外国人労働者の参入により、上がるはずの賃金が上がらなかったという可能性は無視できないだろう。

一方で移民による犯罪率の増加という点でも否定的な結論で一致している。それ以外もイノベーションへの影響とかいろいろ調査結果はあるのだが、そもそも最も影響が直接的な賃金ですら、統計の取り方によっては全く影響がでないと結果もあり、移民だけの影響による結果というのは実際はかなり判別が難しいように思われれる。


"ふたつの日本 「移民国家」の建前と現実"のほうは打って変わって日本の外国人労働者とそれを取り巻く政策の移り変わりと現状について詳しく書いた本である。

学者ではなく外国人労働者の権利を守るメディアの立場で書かれた本ではあるが、主観的なアンケート等に基づいた記述はなく、基本的には政府の資料等からデータが出されており、特に偏った本という印象はない。

特にわかりにくい政策の方向性が非常によく整理されていて、技能実習生とか特定技能とか昨今話題になったので断片的には知っているものの、全体像があまり良くわからない制度について良く知ることができた。


ここで表題の「移民に反対するのは排外主義者なのか」という問題に戻ってみる。これについては以前からなんとなく疑問に思う部分があったのだが、これらの書籍を読んでもそれはそこまで間違っていないのではと感じている。結論を先に言うと以下になる。

  • 現在自国で働いている外国人労働者の人権問題は重要であり解決すべきである
  • しかし将来的に国家として外国人労働者を増やすべきかとという問題は分離して考えるべきである
  • 結果として将来的に国家として外国人労働者を増やすべきでないという結論になったとしても、それは排外主義ではない。

移民と言うといろいろ話がややこしいが、"外国人労働者"と考えると主要な登場人物は3人しかない。もちろん労働者のいる地域住民等も無視はできないが、経済的な主要な登場人物はあくまで下記である。移民に賛成反対という立場で言うと、1と2は賛成。3は反対という立場になるだろう。

1. 経営者
2. 外国人労働者
3. 外国人労働者と競合する地位の自国労働者

個人的に気になるのが、外国人労働者の人権問題を解決したいという善意が、安い労働者を使いたいという経営者の意見と結果的に一致することによって、うまく「利用される」ことだ。

それによって「外国人労働者と競合する地位の自国労働者」の移民反対の主張は極右の排外主義者とされる。彼らの雇用に影響があることが経済学的にも立証されているにもかかわらずである。

もちろん現在働いている外国人労働者の長期的な問題は、将来的な外国人労働者を増やすべきかという問題に直接関係する。しかし、そこで「経営者が必要としているし、外国人労働者本人も働きたいから」というだけでこの問題を考えていいのだろうか。

人権問題は考慮する必要はあれ、国民国家という制度で現代は成り立っている以上、自国民と他国民で何らかの区別をする必要があることそのものを否定することは難しい。

技能実習生のようなサイドドアによる不透明で人権的に問題のある制度は改善の必要があるとはいえ、全ての外国人労働者に無条件で永住権を与えるような施策は現実的ではないだろう。

外国人に限らず期間労働の問題は難しいものがあり、正規の雇用期間が終了した後で解雇されることは本人的には非常に大きな問題だ。しかし正規の雇用期間終了後も解雇できないという話になると、そもそも採用自体が難しくなる。出稼ぎ型の外国人労働者の受け入れも同じ問題があると言える。

そういう意味では"特定技能"という制度は基本概念としてはそこまで悪くはないように見える。技能実習からの横滑りという抜け道をふさいで、送り出し機関の問題を解決してからだとは思うが。あまり詳しくないが韓国はこの問題に国が関与する形を取ったという話を聞いたことがある。

「かわいそう」から誰かを悪者にするのは簡単だ。しかしそれが本当に正しい対象に向かっているのか、誰かの利益に利用されていないかは、ある程度冷静に考える必要があるだろう。