阪本トクロウ デイリーライブス

阪本トクロウ|デイリーライブス | 武蔵野市立吉祥寺美術館

自分は美術展で「良い作品」にはたまに巡り合うが、「わかる」という強い共感を覚える作品というのはほとんどない。本展は久しぶりに「わかる」感を覚えた展覧会だった。

写真を撮るときに妙に空の領域を大きく取りたくなることがないだろうか。実際そのような写真を撮ってみて、後で見てみると何が撮りたいのかさっぱりわからない写真になる。

また階段の写真もよく撮りたくなるのだが、これも本当に階段だけの写真を撮ると、いったい何を撮りたいのかよくわからなくなる。

そのような世界の切り取り方で、自分が単に表現が下手でうまく表現できないものが、阪本トクロウさんの作品、特に呼吸シリーズで見事に表現されているように感じた。

「何が撮りたいのかさっぱりわからない」のは当然で、そこにあるのは作家の言葉を借りれば「中空」だからだ。明確な対象が存在しない空虚さこそが表現したいことなのだから。

その空虚の中にある繰り返しの要素によって、呼吸のように正確なリズムが刻まれる。それによって現実によってぐちゃぐちゃになった精神の何かがリセットされて、あるべきリズムをとりもどそうとする。その感覚に感動を覚えるのだと思う。

何の話をしても日常系の話につなげるのもどうかと思うが、そこにもやはり日常系に似た感覚はあるように思う。日常系はかつては空気系とも呼ばれていたらしい。

その呼び方は「中身がない」と言われているようであまり好きではなかったのだが、「空にこそ意味がある」という意味では正しい呼び方なのかもしれない。