プリンセス・プリンシパル

プリンセス・プリンシパルは「苦いチョコレート」なのだと思う。

本作を最終話まで観て感想を書こうと思って悩んでしまった。架空のロンドンを舞台としてスチームパンクとして練りこまれた世界観、丁寧に作られたシナリオ、そしてキャラクターの魅力はもちろん十分にある。でもそれは最も特徴的なことではない。

本作は美少女スパイアニメという甘い外見に反して、少し強すぎるくらいの苦みがある。単純に言うと「後味の悪い」回も結構多い。そこにあるのはブラックユーモアや、社会に対する強い怒りではない。何らかの理由で結果的にその立場になってしまった弱い人間の末路である。だからこそ苦い。

この「美少女という甘さと苦さの組み合わせ」は作品の作り方としてはむしろ定番と言える。戦闘をハードな方向にする、ホラーサスペンス展開にする、エログロにするなどいろいろな方向がある。これらはどちらかというと映像的なアプローチだ。

本作はその「苦み」を作る上でそのアプローチを取らなかった。脚本を丁寧に積み上げ、現実の19世紀のロンドンの暗黒面を設定に引用し、キャラクターに深みを持たせることで、苦みを作り出した。この丁寧に作られた「苦み」こそが本作の真骨頂なのだと思う。

酒好きな人なら酒に例えそうだが、あいにく自分は酒はあまり好きではない。だから「苦いチョコレート」に例えさせてもらった。

まあ正直ドロシーは不幸系に巻きこまれすぎとか、親がまともならスパイにならないとはいえ、父親虐待系に頼りすぎと思わないわけではない。とはいえそれ以外の魅力が多いので良しとしよう。

「苦み」に強く焦点を当ててしまったが、「甘さ」である美少女ものとしても、プリンセスとベアトリスは正統派美少女として、アンジェ、ドロシー、ちせは癖がありながらも、回が進むごとにその魅力が見えてくる良さがある。

そしてやはり圧倒的な世界観の良さがある。オープニングのカッコよさは、俺の中でのオープニングがカッコいいアニメランキングの中でトップかもしれない。勘違い日本のやりすぎ感とか意外と笑える部分もある。

最終話付近には確かに不満もある。物語そのものはプリンセスの理想と現実とか最終話らしい良い展開だと思う。しかしやはりずっと敵役として出てきたノルマンディ公との直接対決が観たかった。それは実質二期であるCrown Handlerに期待しよう。

第一話でほぼ全ての本作の魅力が詰まっていると思うので、第一話を観てはまったら観るべきだし、あわないと思ったらその後も観なくてよい。一度第一話だけでも観て欲しい作品だと思う。