製作委員会は悪なのか? アニメビジネス完全ガイド

なるべく主観によらずにビジネスとしてのアニメの仕組みを解説した本で面白かった。アニメーターの賃金安い問題については正論ではあるが、他の視点もあるように思う。

製作委員会がなぜ必要なのか

アニメと似たようなコンテンツとしてゲームが挙げられると思う。どちらも同じような以下の特徴を持つ。

  • コンテンツによる当たりはずれが大きい
  • 完成までにかかる時間は3年程度と長く、関わる人数も多いので必要資金も多い

それなのに製作委員会という形がアニメでだけ主流なのはなぜか。それは「コンテンツから収入を得る手段が多様化しており、それぞれに専門の会社があるから」という点である。それがアニメのビジネスを複雑にしている。

ゲームは直接的にコンテンツに対してユーザーにお金を払ってもらうことが主要な収入である。そのため1つの会社で制作から販売まで管理することができる。開発会社と流通会社が別なこともあるが、それでもそこまで複雑なわけではない。

一方でテレビ向けアニメの場合は収入のルートが複雑である。大きく分けて3種類あって、いずれもそれなりの規模であり、細かいジャンル毎に全て別会社になる。

  1. コンテンツをユーザーに販売する (BD、映画)
  2. コンテンツを配信会社に販売する (国内、海外の配信)
  3. コンテンツの派生商品をユーザーに販売する (原作、ゲーム、グッズ、音楽)

テレビは実はどこにも入らない。特に深夜アニメの場合は放送枠を買い切ってしまうので、テレビは上記の広告宣伝媒体でしかなく、放映は何の売上にもならないというところがさらに複雑な部分である。

それでもまず作品ありきでありそのためには大きなお金がかかる。そのお金を集めるために、上記の各々の販売を行う会社がそれぞれお金を出し合うことでリスク分散し、自身の販売に責任を持つという仕組みが製作委員会なのだと理解した。

逆に言えば以下のパターンであれば製作委員会は不要で1つの会社で行うことも可能である。

  1. 1つの会社で全ての販売方法を網羅することができる
  2. 特定の販売方法以外の販売を行わない

1になるのがディズニーであり、日本ではソニーバンダイナムコブシロードが最もその位置に近い。

2についてはNetflixがその方向なのだと思う。それを考えるとNetflixがゲームをやろうとしているのにも納得がいく。逆に萌え系のようにコンテンツの派生商品の展開が複雑で、その収益が大きいものはNetflixは手を出しにくいだろうと予想できる。

アニメーターの給与はなぜ安いのか

この本においてアニメーターの給与はなぜ安いのかに対する論理は以下のようになっている

  • 製作委員会は資本を拠出しているので、売上げが少ない場合のリスクを取っている。だから売り上げが多ければ儲けが多いし、少なければ赤字になる。
  • 制作会社には契約した制作費を支払って納品してもらっている。それ以上はリスクを取っていないので、ヒットしても払う必要がないし、赤字になってもお金を要求するわけではない
  • アニメーターの給与が安いのは制作会社の内部の問題である。
  • だからアニメーターの給与が安いことに対して製作委員会は何の責任もない

論理としては確かに間違っていない。しかしこれは製作委員会方式の資本と労働、制作と販売の過剰な分離による弊害という観点で捉えることもできる。

ゲーム業界がアニメ業界よりましなのかというとどうかと思うが、少なくともプログラマーが全員フリーランスという会社はまれだろう。またヒット作品を作ったクリエーターであれば、それなりの給与をもって扱われていると思う。

それは制作と販売の両方が同じ会社というリスクを共有し、良いコンテンツの制作があってこその販売であるという当たり前のことを前提としているからだと思う。

マルクス的な意味での資本家と労働者の分離、現代における株主と従業員の分離。確かにリスクを資本家と労働者に分離することで、労働の安定がある程度確保される点はあるとはいえ、結果的にはこの方式は格差を拡大することが歴史的に証明されている。

現在は制作のほうが人手不足なのだから確かに制作会社から制作費の値上げを迫るべきだろう。本来であれば流動性の高いフリーランスのほうが、人手不足期には社員より賃金上昇は行いやすいはずだ。

とはいえ、本質的には製作委員会方式という資本と労働、制作と販売の過剰な分離を是正しない限り、問題は解決に向かわないのではないだろうか。