天冥の標

正しいSFとしての楽しさに溢れた作品。

天冥の標を全10巻、単行本で17冊を読み切った。第1巻を買ったのが去年の10月なので約7か月かかったことになる。

大長編ではあるが、1巻を出したら人気が出たので2巻以降も出たという作品ではなく、最初からすべての物語構造が決まったうえで書き始められた作品である。それゆえの大きな仕掛けが最大の見どころである。

構造としては"ハイペリオン"と"ハイペリオンの没落"に近いように思われた。お互いに関係のなさそうな複数の話が途中で重なり合い、後半は一つの物語として結末に向けて一気に加速していく。

"ハイペリオン"ではその複数の話は章毎であったが、これは巻毎というスケールの大きさ。だからこそ途中で全ての話が繋がった時の興奮は他の作品では味わえないものだった。

そして物語的な仕掛けだけではない、SFとしての大きな仕掛けの数々。1巻ではいろいろな謎が残されたまま、なんとなく普通に区切りがついたように思うが、そのいろいろな謎は全てとびきり大きな仕掛けの伏線として回収される。まあそこまでがかなり長いのであるが、頑張って読んでいただきたい。

この物語を書き始めた2009年にはそんなことは全く予想だにしていなかっただろうが、この物語の最も大きなテーマは「伝染病」である。

高確率で死に至る病気ではあるが、回復する場合もある。しかし回復した場合でも、病気の伝染力は消えないという設定により、回復者が差別と隔離を受ける社会。コロナ禍の今となっては不気味なくらい予言的になっている。

もう一つの大きなテーマは「セックス」である。もちろんテーマ的には生殖と生命の進化的なSF的な部分があるのだが。

特に4巻は官能小説かと思うくらいひたすらセックスの話しか出てこない。電車で読むのがためらわれるくらいである。まあ読んでたけど。自分は聖少女警察が一番エロいと思います。

もちろん壮大なスペースオペラとして宇宙戦闘もあるわけで、特に"酸素いらず"についてはいい意味でラノベ的な、ストレートに萌えて燃える楽しさに溢れている。1巻だけでも映像化しないかな。

正直ミスチフ周りの締め方については納得感がない部分もある。しかしそれが些細なことと言えるくらいには、SFのありとあらゆる方向の魅力を詰め込んだ作品だった。