この著者の本は以前「居るのはつらいよ」を読んでいる。この本も非常に面白くて感想を書いている。
"ケア"としての日常系 - yamak's diary
本書の面白いところは、形式上は臨床心理士という仕事の紹介本であり、実際にその点において非常にわかりやすいということだ。
自分も一時心療内科に通ったことがあるが、そこまで重症でもなかったこともあり、診察で話を聞いてあとは薬をもらって終わってしまい、あれこういうものだっけという感想だった。
心療内科というと薬を処方するイメージのほうが強く、薬を処方しない臨床心理士があること自体正直知らなかった。
フロイトやユングを含む心理学の歴史や、社会運動や自己啓発、宗教やマインドフルネスとの関係などを含めて網羅的にカウンセリングを知ることができるようになっている。
ここからが著者らしい部分。人間が必要とすることを生存と実存の2つに分けて考える。生存というのは金銭的、身体的、社会的に現在明らかに問題あるかどうかだ。実存というのはそこには問題ないが「何かつらい」という気持ち。これは個人によると思うが、その感覚は理解できるのではないか。
そのうえで生存のためのカウンセリングと、実存のためのカウンセリングをわけて説明していく。興味深いのはやはり実存のためのカウンセリングだ。
この本で何度も強調されているのは、そこに向き合うのは非常に時間がかかるということである。自己啓発書を1冊読んで人生が変わるようなことはない。何十年もかけて自分を形成してきたものは非常に厚い。プロが個別のケースに向き合って、毎週1時間話をしても、最低でも1年はかかるというレベルのタイムスパンである。
その向き合い方の転移という方法論も非常に興味深い。物語という言い方が何度もされているが、今風に言うなら筋書きのないイマーシブな演劇と言ってもいい。問題となる関係性を心理士と患者の間の関係性として再現する。
最初からそのように患者が意識して行うわけではなく、実際のコミュニケーションを通じた関係性として再現される。心理士は実際に傷つきながらも、それを治療として客観視する。職業として訓練されているとはいえ、よく精神崩壊しないものだと思う。
自分自身は現在生存の問題があるわけではない。しかし「何かつらい」という実存の問題はある。強弱はあれ全くない人などいないのではないだろうか。
自己啓発書もコーチングもマインドフルネスも宗教も、実存の問題を解決しないということは実際にやってみて知っている。では自分もカウンセリングを受けるべきなのか? そもそも何を解決すべきなのか? 非常に良い本だった故に、逆にじゃあどうしたらという感がある。
