世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?

典型的なクソ自己啓発系ビジネス書。

率直に言えば自己啓発系ビジネス書というのはクソ本しかない。基本読まないのだが、時々それなりに話題になって、かつ自分の関心事に引っ掛かる本というのが出てくる。そういう本はその話をする際に前提として読んでおかないと、批判もできないので読む場合がある。

いわゆる「アート思考」ブームというのが今回の関心事で、この本はそのブームに一役買った本だろう。

アートに興味を持つことでビジネス的に成功するなら、30代から週1回はほぼ必ず美術館や劇場に行ったりしていた自分はさぞかしビジネス的に成功しているはずだ。

しかし自分はアラフィフにも関わらず未だに雇われ平社員で何の役職もない。上司は20歳近く年下である。コンサルやアーキテクトみたいな上級専門職でもフリーランスでもない。


本書の話からは少しずれるがアートがビジネスに役立つ系の本というのは2種類ある。一つは本書のような自己啓発系ビジネス書だ。もう一つはアートの専門家が出版社に依頼されて書く本だ。それに当たる以下の2冊も読んだ。

この手の本の特徴はまずアートの専門家が書いているので、アートについての内容はしっかりしている。元々アートに興味のある人にとっては当たり前に知っていることも多いが、専門家の本だけに初めて知ることもある。あまり興味のない人にとっても興味を持つきっかけにはなるかもしれない。

問題はこの手の本は「ビジネスに役に立つ」という部分をかなりぼかして書いてある。理由は典型的な「海外のエリートはアートが好き」話である。それどころか「ビジネスに役に立つかどうかはわからない」という前置きさえする。

アートの鑑賞なら貧乏人でも可能だが、購入を伴うアートマーケットは金持ちしか参入できない。そこにいる人は当たり前だがビジネスの成功者だ。だからなんとなくこの前提が正しいように錯覚する。


自己啓発系ビジネス書である本書の話に戻る。自己啓発系ビジネス書というのは基本的に全て同じ構造である。

  1. 日本の企業は停滞している等の一般論。ほぼ必ずAppleと比較される
  2. その為にはXXが足りないという主張。XXはイノベーション、リーダーシップ、顧客重視、真善美とかの一般論
  3. XXを身に着けるには著者の専門分野であるOOを学ぶべきという主張
  4. 海外の企業はOOを重視しているとか、OOでXXが上がる研究成果があったとか、自身の過去話とか。これがとにかく長い

本書が完全にこの形式に沿っていることは明確だろう。一応言っておくと、この手の本を書く人はそれなりに博識の人なので、4は面白い部分もある。しかし何の面白みもない一般論が基本的な主張なので、だから何感しかない。

例えば"アート"の部分を"デザイン"に置き換えても本書の主張はほとんど成り立つ。本書でも"デザイン"という言葉は出てくるが、デザイン系のビジネス書では本書の"デザイン"の定義は誤っていて、本書で言う"アート"は実は"デザイン"なのだという話になる。"マーケティング"でも"ビジョン"でもなんでもいい。要するに言葉遊びでしかない。

この手の本を書く人の目的を考えると、自身の専門分野によるセミナーなどを行うことで収入を得たいというのが基本的な動機だろう。本はそのための宣伝と考えて良い。

まあこの手の人はそこまでしなくても既にビジネス的に成功している人が多い。というかビジネス的に成功した人の言うことでないと、この手の本の読者は信用しない。


趣味なんてその時の自分が興味あるものを観ればいいと思う。視野を広げること自体は良いことだが、仕事のために好きでもないものを無理に観る必要はない。それよりも好きなものを観て、ストレスを解消したほうがよっぽど仕事のためになる。