劇場版 きんいろモザイク Thank you!!


徹底した原作リスペクトによる、きんモザファンのための映画。

そもそも4コマ漫画というのは映画にするのは難しいと思う。もちろん4コマ漫画と言っても最近は大きなストーリーもしっかりしているものも多く、そういうものはそこをメインにすればいい。

しかしきんモザのように大きなストーリーはあまりなく、キャラクターと関係性とギャグだけで構築される「日常系4コマ漫画」はそのままでは映画にするのが難しいと思う。

テレビアニメであれば、サザエさんのように短い話の組み合わせとして見てもらうこともできる。しかし映画は1時間半程度というそれなりに長い時間があり、それなりに物語としての緩急がないと退屈してしまう。

そのためには無理にでもなにか大きな物語を入れなければ成立しない。完全にオリジナルにするか、原作の特定のエピソードを膨らませて物語を成立させるというのが通常の方法だろう。

ところが本作はその方法を取らなかった。大きな物語は原作通りの「卒業」という点だけに絞った。それよりも原作の「日常」をテレビ版のように如何にそのままアニメ化するかに注力した。

オープニングがその点で象徴的だと思っている。オープニングの歌とスタッフ紹介が流れながらバックの映像でストーリーを進めることはよくある手法だと思う。

しかし本作はその途中でセリフを入れて、そこで4コマのギャグを入れてしまう。オープニングすらもったいない、少しでも原作の素晴らしい漫画をアニメとして表現しなくてはという意地すら感じる。

4コマ漫画で普通のストーリー漫画しか読まない人が違和感があると思うのが、感動シーンのような大きな感情の連続が重要なシーンであっても、4コマ目で意地でもオチをつけることではないだろうか。

そこにこだわらない作家さんもいるが、自分は結構そういう4コマギャグ漫画であることに対する執念のようなものがすごく好きだ。きんモザの原作はそういう点で徹底して4コマギャグ漫画である。

当然ながらこれも映画でやると感情の動きを阻害するので普通はやらない。やるとしても大きな感動シーンが全部終わってからオチを付けるのが普通だ。

しかし本作はその点も一切容赦しない。卒業式とか普通の映画であれば感動を続けるところを、原作通りに淡々とギャグを入れていく。

原作もテレビ版も見ずに映画版を観た人であっても、本作は基本ギャグしかないので内容が理解できないことはない。でも大きなストーリーが修学旅行に行って受験して卒業することしかないので、何がしたい映画なのかはさっぱりわからないと思う。

しかし本作はだからこそ素晴らしい。きんモザは「ゆるふわ学園コメディの金字塔」とキャッチコピーに書いてあるが、少なくとも日常系漫画に詳しい人なら、個人の好き嫌いはあれ異存はないのではないか。

映画版であっても気負うことなく、きんモザらしい「日常」をそのままアニメとして表現すること。それが原作に対する最高のリスペクトであり、きんモザファンが本当に望んでいるもの。それを十分にわかったスタッフだからこそできた映画なのだと思う。