黒田清輝─日本近代絵画の巨匠

日本洋画史における最重要人物でありながら、よく考えたら単独の回顧展を見るのは初めてな気がする。

フランスで学んだのは知っていたけど、実はフランス留学の最初の目的は法律の勉強で、絵画に目覚めたのは留学中というのは驚き。当時の海外留学というものの価値を考えると養父はどう思ったのかと余計なことを考えてしまう。

とはいえフランス時代の絵画も転向組とは思えないくらいうまい。観ていて思うのが、今見てもフランス人の描く絵画以上に日本人の好むフランス絵画っぽいいう点。もちろんそう意識したわけではないだろうが、黒田の感性の日本人にとっての美しさみたいなものが理解できる気がする。

日本帰国後については、日本の洋画とはどうあるべきかと言う模索がいろいろ見えて面白い。その中でも「智・感・情」については全作品群の中でもかなり特殊な位置づけの感じがして興味深かった。

見たときに思ったのは、これはトリプティクであり、観音像なのではということ。トリプティクっていうのはキリスト教の三連祭壇画のことで、黒田が知らなかったわけはない。仏教でもこういう3体の仏像の配置は多い。

なんでこんなものを描いたかについては全くの推測なんだけど、この作品の発表の2年前に裸体画論争が起きている。黒田の出品した裸体画が、風俗の面から問題があるとして論争になった。これって当時としては当然で、今でもレベルは違っても同じ話はあるくらい。

そもそも裸体を神の美しさとするのは古代ギリシャの価値観で、ローマのキリスト教化が進むと捨てられた価値観だった。ルネサンスで戻ってきたけど。世界的にも特殊な価値観で、それを違う文化圏で理解しろと言うほうが無理なのではと思う。

それに対し、黒田の取った方法というのが、日本における観音像、キリスト教におけるトリプティクの形式をとって女性の裸体を表現することにより、女性の裸体の宗教や文化を超えた神格的な美しさを表現しようとしたのではないか。

いやあくまで妄想ですけど、この絵はそれくらい特殊な絵のような気がする。