STARS展 現代美術のスターたち

豪華だけど、こんな歴代ライダー大集合みたいな企画で大丈夫かというのが、この展覧会の企画を聞いた時の正直な感想だった。

ただ考えてみると、本来であればこの時期は東京オリンピック開催の期間であった。そこで日本に来た外国人に対して、世界的に有名な1980年以降の現代美術家をまとめて紹介するという意図がもともとあったのではないだろうか。

1970年代までであれば、かなりの作家を東京国立近代美術館東京都現代美術館の常設展で観ることができる。しかし、1980年以降の現役作家となると、作品が現在なお高価で取引されることもあり、なかなかまとめて観ることはできない。この役割を森美術館が行うというのであれば、かなり志の高い企画だろう。

しかしながら、コロナの影響でなんとも微妙な時期にやたら派手な企画を開催することになってしまった。延期したところで来年オリンピック開催の期待も薄く、計画通り行ったというのが実際ではないだろうか。

全員が超有名美術家ということで。現代美術好きにはむしろコメントが難しい展覧会ではある。自分も全員の作品は良く見ているし、宮島達男以外は個展も行ったことがある。

面白いのは自分にとっては好きな作家群と興味のない作家群が明確に二分されていることである。あまり気負わずに、6人をありなしで分けるのが、自分の好きな傾向を知るのにいいかもしれない。

興味のない作家

奈良美智

美術好きでない人も含めると現在最大の人気作家だとは思うが、自分のなかでどう扱っていいかよくわからん作家である。

少女の単純な萌え的な可愛さではなく、そこから一歩引いた感じの、それを含めた可愛さ。そういうものをイラストレーターや絵本作家とは異なり、美術家としてメインにしている人は確かに見ない。そこを美術にしてしまったところか彼の凄いところではあると思う。

ただどうやっても"かわいい"や"おしゃれ"という文脈に容易に回収できてしまう。本人の意図とは別であっても。

それが好きという人はたくさんいると思うし、それを否定する気もない。しかし、少なくとも自分にとってはそれは興味のある現代美術ではない。

宮島達男

展示されていた初期作品と思われる"30万年の時計"はそのシンブルなコンセプトに当時の時代に対する先進性を強く感じた。しかしその後のダイオードを使った作品については個人的にはほとんど関心がない。

自分自身がプログラマというのもあり、コンピュータ的なものが間に入ってしまうと、制約の中での面白さというのがあまり感じられないのが原因かもしれない。ビジュアル的にはどの作品も変わり映えしないように見えるのもある。

好きな作家

杉本博司

水平線の作品は何度か観たことがあったが、あまりにストイックすぎてよくわからなかった。森美術館の個展で過去作をまとめて観ることで、凄さがわかって好きになった作家である。

写真という表現方法で何ができるかということを理屈で突き詰めた表現方法なので、作品をポンと1つだけ置かれても評価はしにくいのが難しい作家である。

本展で展示されているシロクマも、水平線の写真も何の説明もないので、初見の人はなんだかよくわからずに終わってしまいそうではある。

李禹煥

自分は「もの派」が好きだ。こういう突き詰めたミニマリズムを先端の美術として認められた時代が1970年代くらいまでで、それ以降では少なくともそれは美術の先端ではなくなってしまった。ある種の時代に対する憧憬的なものもあるだろう。

本展の展示もこの作家らしい展示で、村上 隆のインパクトの後に静謐な感じであるのも効果的だった。アクリル絵具で描かれたカラフルな"点より"が今の人に刺さるのかは正直よくわからない。

草間彌生

ある意味かつての岡本太郎のような現代美術家のポジションにいるのは彼女かもしれない。最も有名な作家の一人でもあり、ちょっとよくわかんない人という現代美術のイメージでもあり。

水玉がおしゃれ文脈で近年は捉えられるようだが、基本的には狂気だと思う。本展で展示されているピンクボートはその狂気が満ち溢れておりすばらしい。
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作家名・作品名:草間彌生《ピンクボート》*1

初期作品である"ミシガン湖"は何度か観ていた気がするが、今回これは絵画とも、材料とも、テクスチャとも言い難い何かでしかないということを改めて感じた。

村上隆

Ko²ちゃん、ヒロポン、マイ・ロンサム・カウボーイの最も有名でありながら物議をかもした三体の立体作品をまとめて観ることができるというだけで、本展は価値があるのではないかと。

この三体も何度も観ているように思うのだが、今回実は今まで気が付かなかった点にいくつか気が付いた。

自分が村上隆に興味を持ったのは、マイ・ロンサム・カウボーイだった。当時は美術そのものにそこまで興味があったわけではなかったが、頭おかしいとしか思えなかった。
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今世界のムラカミの作品と思いながら改めて観ても、やはり頭おかしいと思う。しかし造形としてはすごくバランスがとれており、グロデスクな一方でその美しさも否定できないなと。

彼らの瞳はこの時点で、全て村上隆特有の極彩色の瞳になっているということに気が付いた。特にKo²ちゃんは、この瞳によって商品としてのキャラクターではなく、村上隆の美術作品なんですよという印になっている。
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あとKo²ちゃんは服を着てエプロンしているように思ってたが、実は肩とスカートだけ服があって、体は裸エプロンというえらいマニアックな作りになっていることに気が付いた。だから乳首が作られている。
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性欲の対象としての徹底したこだわりを感じた。その点は日本のオタク文化からのフィギュアをアート化する上で絶対に無視できない点である。自分自身 Ko²ちゃんはそういう点でありなしで言うとアリではある。

今の村上隆風日本美術路線は意図は理解できるけど、それに心を動かされるかというとなんともというのが正直なところ。どの作家もそうだが初期のインパクトの大きい作家ほど、その後の作品は評価が難しい。

*1:この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスの下で許諾されています。