十字軍物語

オチが苦い。

塩野七生の大型の著作としては海の都、ローマ、ギリシャと読んで4作目。特に十字軍に興味がある出来事があったわけでもなく、最近面白い本に当たってなかったため、安定して面白い塩野作品を読んだのだが、確かに本作も安定して面白かった。

十字軍についてもほとんど知らず、最も詳しく知っているのが海の都で出てきた第四次十字軍という最も十字軍らしくない十字軍。聖堂騎士団についても、なんかファンタジーの設定とかでよく出てくるけど、オリジナルはこれだったのかということを初めて知ったくらい。

読む前は全く意識していなかったのだけれど、エルサレムに実際に行ったことがあることが本書を読む上の理解に非常に役に立った。岩のドームがどのくらいの広さかとか、ダビデの塔はどの位置にあるかとか、現実にあるものとして意識できるのは、実際に行くということでしか得られないものだと思う。

騎士や王というのもファンタジーでは当たり前の概念だけれど、実際の中世の騎士というのはどういうレベルの単位でどの程度の力を持っていたのか。この辺りもヨーロッパ中世史に全く疎い自分にとっては、かなりわかりやすいサンプルだった。

塩野さんは基本キリスト教にはかなり塩対応なので、キリスト教国の歴史家からすればかなり異論のある解釈もあるのだろうが、そこに対していちいち皮肉を書くのも相変わらずの塩野節である。

まああとはこの時代の話になると必ず出てくるモンゴル襲来。もちろんどの時代においても完膚なき文化の破壊というものはあるのだけれど、モンゴル襲来では全ての文化が完膚なきまでに破壊される。例えば朝鮮における仏教文化もその一つ。これさえなければ残った文化ももっとあったのではと思わずにはいられない。

本作の一番の主役は聖堂騎士団と病院騎士団だったのではないかと思う。最初聖堂騎士団についてはかなり厳しい書き方だったのだが、途中まで読む分には病院騎士団に対してそこまで問題があるようには思えなかった。

問題はその最期である。彼らが悪かったわけではないのだが、病院騎士団に比べてあまりにも後味の悪い最期であった。