少女歌劇団ミモザーヌ 魅惑のバラエティショウ

新しい方向性のエンターテイメントとして完成度が高かった。

自分はこの劇団のことはつい1週間前まで知らなかった。コンセプトとしては「本物の少女歌劇団」。メンバは20歳以下で20歳で退団。アイドルグループに似ているけどあくまで歌劇団。そして何より総合演出が広井王子という点だと思う。実際は吉本興業がバックにいるらしい。

先日暑くて外に出たくないので、たまたまdアニメストアで無料配信していたテニミュを観た。ミュージカルとしては確かに面白いけど、自分は別にイケメンには興味はない。手ごろに観られる女子だけのミュージカルはないかなと思っていた。演劇版のスタァライトはそれに近いけど配信はない。

そんな時に偶然以下の広井さんのインタビューを読んだ。自分は「天外魔境」も「サクラ大戦」もやったことはないけどその存在は知っている。このインタビュー自体も面白いが、そこでミモザーヌを知った。これは自分の観たいものなのではと。
幼少期から大人の世界で過ごし,「サクラ大戦」などの名作を生んだ広井王子氏の“暇つぶし” ビデオゲームの語り部たち:第36部

ただ正直あまり期待はしていなかった。タイトル的にもミュージカルではなさそうだし、アイドルグループのライブを観る感じなんだろうなと思っていた。ところが実際に観たら確かに今まで観たことがない方向で、なおかつレベルも非常に高くて期待をかなり上回る方向で楽しめた。

自分は"普通のおっさん"と比べたら舞台は観ているほうではないかと思う。ミュージカルも四季を含めて何度か観ている。今は観ていないがコンテンポラリダンスやバレエは一時はかなり観ていた。一方で音楽ライブは多くはない。アイドルには全く興味がない。Perfumeだけは一時好きでライブにも行ったな。

そういう自分にとってもこの舞台は観たことのない体験だった。構成としては2部構成で前半がミュージカル仕立て。後半が歌とダンスのライブとなっている。演劇やダンスとしてはあまりない構成だけど、宝塚は後半はレヴューだし、演歌歌手の歌謡ショーもこういう構成らしい。

前半は一応ストーリーがあるのだが、通常のミュージカルと比べるとあまり多くはない。短いストーリーの合間に人物の気持ちが歌で入るような感じである。しかし歌はバリバリのミュージカルナンバーでオリジナル曲もあれば、既存曲もある。自分はミュージカル曲が聴きたかったのでその点では非常に満足できた。

そして歌のレベルは本当に高い。メンバによって多少レベルにばらつきはあるようだけど、聞いて不安になるレベルのメンバはいない。むしろ無茶苦茶上手いなというほうが多いので安心して聞いていられる。ダンスもレベルが高くて安心して観られる。

後半は歌とダンスだが選曲が面白い。オリジナル曲もあるけど既存曲の方が多い。既存曲は昭和歌謡とジャズのスタンダードというベタに振り切っている。既存曲であっても今回は津軽三味線のメンバが入ったりとアレンジが凝っている。

全体を通して面白いと思うのが、本劇団の3つの特徴を揃えたところが差別化として尖っているという点だと思う。3つの特徴とは以下である

  1. 20歳以下の女性のみという団員の構成
  2. 歌とダンスのパフォーマンス力の高さ
  3. 基本はミュージカルである事

通常のアイドルグループであれば1と2は備えているが差別化は難しい。学生演劇であれば1と3はできるが、2のレベルは難しい。広井王子吉本興業という強力なバックがいるからできるのだと思う。2と3だけなら宝塚や四季や帝劇を観ればよい。3つの要素が揃っているところに意味がある。


一方で気になったのはファンの開拓が結構難しそうだということ。会場は草月ホールだったが公演1週間前でもチケットは取れた。観客をみても家族や友人や関係者の知り合いなどが半分くらいのように見えた。思ったよりおっさんだらけということはなかったのはいいとしても、物販にほとんど人が入っていないように見えたのは結構問題がありそう。

理由は明確でそもそも男性向けのミュージカルの市場がほとんどない。既存の劇団も観客のほとんどは女性だし、2.5次元舞台も女性向けのものがほとんど。そこに一石を投じようとして企画されたのがスタァライトだったりする。これは自分が勝手に言ってるのではなくてブシロードの木谷さんがインタビューで言ってる。

公式サイトに書かれているプロモーション媒体を観てもスポーツ新聞がほとんどという状態で、悪いということではないがそこに刺さるのかはわからない。一部メンバはグラビアにも出たりしているようだが、宣伝のためとはいえという感じもある。

そもそも劇団が興行的な成功を狙っておらず、基本的に吉本興業の芸能部の養成機関という位置づけらしい。少女歌劇のマーケットがないことも事前にわかって始めたそうなので、そこは最初から割り切っているのかもしれない。以下のインタビューに詳しく書かれていた。
「サクラ大戦」「天外魔境」のクリエイター 広井王子氏の企画力や行動力の源とは。「黒川塾 九十二(92)」聴講レポート

個人的にはバラエティショウはそれはそれで面白いが、ガチのミュージカルのみの公演を観てみたい気がする。劇団としてアイドルとは違う路線を目指すなら、演劇業界で評価されるしかないのではないだろうか。