裁量労働制は"勤務時間が長い"のに"満足度は高い"

"働き方改革"の一部として、ホワイトカラーエグゼンプション裁量労働制の適用拡大が議論となっています。その中で、裁量労働制で、労働時間が短くなるのかという点が焦点になっています。

その際の参考資料として下記の"裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果"が挙げられます。
http://www.jil.go.jp/institute/research/2014/125.html

この調査は以下の興味深い事実が含まれます。

  • 裁量労働制のほうが通常の労働時間制より勤務時間は長い
  • それにもかかわらず、裁量労働制適用者の7割は現行制度に満足している

これは何故でしょうか? それについて書いてみたいと思います。

1. 勤務時間は長くなるのか

この調査だけでは長くなるとも短くなるとも言えないと思います。

"図表4-6 1ヵ月の実労働時間"によると、裁量労働制で勤務時間が長くなると取れます。しかし自分は「この調査結果では長くなることの裏付けとしては十分ではない」と考えます。

なぜなら「労働時間制ではなく、職種の違いによる労働時間の比較になっている」可能性が高いからです。

この厚労省抽出分の対象は、裁量労働制が適用されている職場において、各事業所あたり労働時間制毎に2名ずつ計10名」の抽出となっています。この場合、労働時間制の違いがそのまま職種の違いとなることが多いと思われます。

図表4-1, 2, 4を見ても、通常の労働時間制と裁量労働制には分布にかなり違いがあり、労働時間制以外の差が大きいのではないかと考えられます。

比較するなら「同一職種において、労働時間制の異なる労働者を比較する」べきではないでしょうか。

ただ、図表4-6の信頼性に疑問があるからといって、裁量労働制で勤務時間が短くなるとも思いません。"図表 4-26 裁量労働制の適用に不満な点"で不満のトップが労働時間であることは否定のしようがありません。

そもそも残業ゼロを目指すなら、裁量労働制は会社の損にしかならないので適用するはずがありません。実際の経験からしても、忙しいときは忙しいです。

2. なぜ勤務時間が長いのに通常の労働時間制に戻りたくないのか

これについてはこの調査だけでは十分に語られていないので推測になります。理由は「業務量の変動に関わらず収入が安定する」からではないかと思います。

裁量労働制といいながらも、実際の業務量は外部要因によって決まることが多いです。図表4-7 や図表4-8を見ても、特に専門業務型裁量制は締め切りに追われる仕事が多いようです。

締め切りに追われる仕事は、忙しい時とそうでないときの差が激しい。重要なのは「忙しくない時には早く帰る」ことです。裁量労働制だとそれが心置きなくできます。この点についてだけは「働き方改革」的な効果を期待できるかもしれません。

逆に言うと「常に仕事が安定して過剰」な場合は、単なる定額働かせ放題となる懸念は十分あります。


裁量労働制についてはそれなりに適用は多く、かなり昔からあるはずなのに、印象論で間違った認識の人が多いように思います。正しい調査、正しい認識のもとに議論がされることを願います。