原美術館と私

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この年になると馴染みのある場所がなくなることはたいして珍しいことではない。とはいえ大抵は「昔は良く行ったけど」という場所だったり、代わりとなる場所がそれなりにあったりする。その意味で原美術館は今でも年に数回は行っていて、代わりになる場所のない場所である。

自分が現代美術というものをすこしきちんと観ようと思ったのは20年近く前のことだと思う。東京には毎週行っても足りないくらいの美術館があるが、原美術館を知るのに時間はかからなかった。

美術館と言えば大きな公立や企業の美術館しか知らなかった自分にとって、やたら高くて小さい美術館の印象ではあった。それでも現代美術で現役の作家の展覧会が多い美術館は東京でも少なく、全ての展覧会でないが、年に数回は必ず来る美術館ではあった。

現代美術というのは好きな人であっても、正直当たりはずれの大きいジャンルだと思う。その中で原美術館の展覧会はどんな展覧会であっても、好き嫌いはあってもある一定のインパクトを与えてくれるということで信頼感があった。現在活躍中の作家の展覧会でそのレベルを維持できる場所は今でも他にないと思っている。

思えば原美術館には他の人と来た記憶が全くない。そもそも自分が他の人と美術館に行くこと自体が相当珍しいのではあるが。とはいえ自分もそういう相手のいる時は、それなりに相手も興味がありそうな無難な展覧会を選ぶ。原美術館にはそういう「無難さ」はない。

建物や庭の美しさ、品川という立地から原美術館は「おしゃれスポット」的な扱いをメディアでされることも多く、デートに来たようなカップルも多い。実際美しいところではある。しかしながら、原美術館はあくまでストイックな現代美術の美術館なのだ。

原美術館には数えきれないほど来てはいるが、結局一度もおしゃれなカフェに入ることはなかった。そして最後の今回も、一人で来たしカフェに入ることもなかった。原美術館とは最後まで、そういうストイックな関係でありたいのだ。

最後に原美術館で印象深かった展覧会をいくつかあげて終わりにしたい。奈良美智の展覧会が16年前とは。

奈良美智─From the Depth of My Drawer
http://www.tokyoartbeat.com/event/2004/765E

やなぎみわ [無垢な老女と無慈悲な少女の信じられない物語]
http://www.tokyoartbeat.com/event/2005/46E2

篠山紀信 「快楽の館」
http://www.tokyoartbeat.com/event/2016/C7B2

『ソフィ カル ─ 限局性激痛』原美術館コレクションより
http://www.tokyoartbeat.com/event/2018/1D3B

加藤泉ーLIKE A ROLLING SNOWBALL
http://www.tokyoartbeat.com/event/2019/3D1B