ノマドランド

これは未来のしまりんの物語なのかもしれない。

アメリカ高齢者の貧困とかアマゾンの搾取とかそういう文脈で取り上げられることが多いように思う本作だが、少なくとも映画だけ観た印象はかなり異なる。

もちろん元となったルポはそういう文脈なのだと思うが、この映画だけを読んで「アマゾンは搾取している」と言うのであれば、相当偏った映画の見方をしているように思う。この映画はむしろその文脈に寄らなかったことにより成功している。

社会問題の告発と分析という文脈であれば、本を読んだほうがはるかに情報が整理される。そこを映画で追及しても仕方がない。むしろそこから物語を成立させて、その結果として興味を持った人が本を読むという流れにしたほうがいいだろう。

ここで描かれるのは女子高生がキャンプする"ゆるキャン"とは全く別の世界だ。キャンピングカーで移動するのは楽しみのためではなく、職のある場所に移動するほうが合理的という必然からである。

しかしだからといってそれだけというわけでもない。主人公は何度も「定住する」選択肢を示されるが、それを明確に拒否する。"ゆるキャン"メンバーではしまりんだけが彼女の境地を理解できるだろう。

自分がこのような生き方に憧れるかというと正直そうでもない。ただそれでも将来東京に住めなくなったときに、実家に戻りたいとは全く思わない。

友人の家に招待されたときに、眠っていると落ち着かなくて自分のキャンピングカーに戻るシーンがすごく良くわかる。自分がそのような選択をする可能性も否定できない。