冷戦後の国際政治を扱った1990年代の書籍で、先日書評を書いた「歴史の終わり」と並んで語られることの多いのがこの「文明の衝突」だと思う。細かいことを抜きにして言えば、冷戦後に来たのは「歴史の終わり」ではなく「文明の衝突」だった。
その象徴がアメリカのアフガニスタン撤退だと思う。西洋文明の輸出は結局のところさしたる成果もなく、全てはアフガニスタン侵攻前と全く同じタリバンの支配に逆戻りした。
同様に湾岸戦争を起こしたイラクは結局のところシーア派の勢力が強まり、むしろイランとの関係を強化することになった。文明の壁を超えることはできなかった。
中国の台頭についても全く書かれている通りのことが起きた。一方経済成長に伴って政治の自由を求める声が広がるのではという当時の一般的な予測が本書にも書かれている。
実際はそうはならず、中国は良くも悪くも文明的アイデンティティを保った状態で経済発展を成し遂げた。イランと中国の結びつきも今現実の話である。
アフリカ、東南アジア、南アメリカの位置づけも20年間ほとんど変わらなかった。一時的に民主化の機運が高まったように思っても、結局軍事政権に戻った国も多い。
アメリカ - ヨーロッパ間の認識の違いは少し大きくなったように思うが、中国やイスラム文明との差を考えればあってないようなものと言える。
アメリカが国家としてのアイデンティティを西洋文明に求めるべきかという問題提起も、それが実際に国家を揺るがす大問題になったのがトランプ現象だったのだと思う。
今本書を読むと、これが本当に20年前に書かれた本なのか、1年前に書かれた本なのではとすら思う。もちろん事例は1990年代の話なのだが、起きていることの構造は今とほとんど変わらない。