おおかみこどもの雨と雪

ジブリっぽい皮を被りながら、世間のポスト宮崎の期待を裏切ってくれる快作である。公開されたばかりだし、これを読んだ人には是非劇場で観て欲しいので、極力ネタばれなしに書こうと思う。

本作のストーリーの仕掛けとしての面白さは、やはり冒頭の大学編だろう。詳しくは言えないが、これってこんな話だったっけという展開になる。ジブリなら絶対やらないのではないか。

これは子育て編だけ観るとなんだかほのぼのして、ある意味緊張感のない構成になってしまうのに対し、これによって「もしかするとあのときにあんな展開があったので」という物語の緊張感をもたらす。

このほのぼのした展開内の緊張感という点は過去形のモノローグにも表れており、その後に何かあることを予感させる。自分はそのせいでほのぼのしたシーンでも終始ドキドキしっぱなしだった。そしてどうなるかは観て確認して欲しい。

また、別の面白い点として「子育ては自然がいっぱいの田舎が一番」という話では実はないのではないかという点がある。非難される点のお金の話が出てこないのは意図的で、そこに御都合主義感をあえて持たせることによって、田舎の悪い部分を隠してますよということを意識させる目的なのではないだろうか。これはちょっと考え過ぎかもしれないが。

演出については、実験的な部分も手堅い部分もありでとにかく丁寧で観ていて非常に楽しい。説明するのもどうかと思うので観てください。

ただ、自分は結婚して子供を持つということが将来にある気がもはや全くしないので、感情移入する登場人物がいなかった。その辺サマーウォーズとは全く違う。

とはいえ、もちろん身内や同僚の子育ての話は聞くわけで、社会的に子育てが難しいことに対する怒りや、子育てする人に対する尊敬や応援の気持ちはあるわけで、そういう他人を応援する気持ちになって観たというのが実際のところである。

最後にどうでもいいネタとしては、富山が舞台といいつつ、街は全く出ないので地元ネタがほとんどなかったのが残念。あとサマーウォーズもそうでしたが、貞本キャラデザの黒髪ロング超正統派ヒロインは反則的な可愛さですね。