木彫り熊の申し子 藤戸竹喜

美術と工芸と民藝の間で。東京ステーションギャラリー

「北海道土産の木彫りの熊の作家の展覧会」というだけで、ある程度美術に詳しい人であっても「なんだそれは」と思うだろう。正直自分も東京ステーションギャラリーの過去の展覧会に対する信頼感がなければ行かなかったと思う。

「いったいどんな展覧会なんだ」と思って入ると出迎えるのは当然熊である。しかし良く知る熊の置物ではなく、欄間のような透かし彫りに熊がたくさんいて、葡萄の蔓と戯れている。単体の熊もあまり見ないポーズをしている。

複数の動物によるジオラマのような作品には圧倒させられる。しかも凄いのはこれが一木造り、つまり1つの木から彫り出したもので、複数の動物を別々に作って組み合わせたのではないということ。確かに台座の木とはよく見るとちゃんとつながっており、木目も一致している。そのうえ下絵もほとんど描かないらしい。

作家の中でも異色の作品も興味深い。作家にとっての転機となったのが観音像なのだが、これまで熊しか彫ったことがなかったのに観音像を完成させるのも凄い。そしてこの観音像がすごく味がある。日本の仏像らしくない生き生きとした感じがある。東南アジアの仏像ぽいというか。

海の動物シリーズも良い。ジンベイザメとかなのだが、海の動物の流線形と木目の感覚の流れのようなものがすごく合っていて、見ていて非常に気持ちいい。そしてサメかっこいい。日常のハカセがサメ好きな理由がわかった。

この作家が美術館で展覧会が開催されたのは最晩年のことだったらしい。それまではアイヌという少数民族の芸術という評価で、国立民族学博物館等で展覧会が開かれていた。

たしかに美術という枠組みで評価するには現代性から離れており、工芸というにはそこまでの伝統もなく、民藝というには技術的なレベルが高すぎる。そういうものを別の視点で評価するのは美術館の一つの役割であり、東京ステーションギャラリーはまた面白い仕事をしたなと思う。