李禹煥展

李禹煥といえば「もの派」の筆頭として「点より」「線より」のシリーズで有名な作家。作品自体は何度もいろいろな場で観たことがある。大規模な個展も観たことがあるような気がするが、横浜美術館の大規模展も2005年とのことで意外と初めてかもしれない。

会場構成はかなり大胆で、時代順ではなく前半がインスタレーション、後半が絵画と綺麗に分かれている。作品には解説は一切なく、自分のスマホで聞くことのできるオーディオガイドが無料で提供されている。

いきなり「点より」「線より」の絵画から入ってしまうと興味を失ってしまいそうなのもあり、インパクトの強いインスタレーションを先に見せて、どういう方向のアーティストかを理解させた後で絵画を見せるのは正しいのかもしれない。

自分としてもインスタレーションの関係項シリーズが印象的だった。「もの派」時代の作品はその時代の価値がある一方で、近年の作品もまるでSFの宇宙人の遺したモニュメントのような不思議な静謐さを感じた。


一番面白いと思ったのは「関係項―棲処(B)」だった。

本作は床に石が敷き詰められていてその上を歩く。しかしその「石」が絶妙で、板のように割れる特殊な石のようだ。どこにでもあるわけではない結構高そうな石である。

それらが床に敷き詰められているのだが、隙間なく置いてあるわけではなく、板のような石の下に別の小さな石が置いてある場合もある。そうすると踏むとバランスが崩れて結構大きな音がする。注意深く歩かないと石が薄いので割れてしまうかもしれない。

特に「静かに歩いてください」という注意書きがあるわけでもない。さすがに走り回ると注意されるかもしれない。その上を歩かないと次の作品に行けないので、皆面白がりながらもどこか恐る恐る歩いている。

自分は「自主的に参加する」インスタレーションというのが苦手だ。それは「他者から見て面白い反応」を期待されるからではないかと思う。

本作は「その上を歩く」という形で全員が参加を強要される。しかし歩けばいいだけなので、別になにか面白い反応をしなくてはならないわけではない。一方で参加の仕方は通常のアート作品としてはかなり大胆で、壊れてしまいそうなものの上を踏みつけるという形になる。

どこにでもありそうな安い物なら躊躇なく歩けるのだが、なにかそれなりに高そうだ。だから誰にもそうしろと言われていないのに「なんとなく」慎重さを要求される。もしがっつり踏んで石が割れるようなら、大きな音で周りに気づかれてしまう。

この「参加を強要されて空気を読む」という行為が、現実の社会とうまくリンクしている。今であれば屋外におけるマスクの着用だろうか。そこが観客に無理のない形で体験され、なおかつ見た目も美しい。理想的な観客参加型のインスタレーションではないだろうか。