世界史の構造

世界史の構造 (岩波現代文庫)

世界史の構造 (岩波現代文庫)

読んでわかったのかと言われるとあまりわかってない気もするが、資本主義をザクッとした視点で考えることはできた。

この本を読んだ動機は、単に新書版 新約聖書のあとがきで佐藤優がこの本に言及していたからである。柄谷行人は名前しか知らなかった。他の著書を読んだこともない。

基本的な構造としての"交換様式ABCD"と"国家、ネーション、資本"があって、その構造に従って主に近代史を解釈する。ただネーションと交換様式Dが結局ぼやっとした理解のまま読み終えてしまった感がある。

引用されている個別のテキストを全く読んでいないので指摘が正しいのかはとにかく、こういう構造を多少無理にでも単純化して本質を探る試み自体は面白い。

個人的に面白かったのが、マルクスが株式会社という仕組みを資本を労働者が解体する仕組みとして肯定的にとらえていたのではという指摘。確かに資本家と労働者という対立軸で考えるなら、資本を分割して労働者が手にいれることができれば、資本家は存在しなくなる。

お前は何を言っているんだと現代なら言いたくなるが、過去の資本家と労働者の対立というのは、資本は世襲で引き継がれ、かつ生産手段は大資本でしか購入できない。そのため資本家と労働者というのは決して超えられない壁であるという前提で成立していた。

その前提であれば、資本を分割して労働者に購入させれば資本家と労働者の対立はなくなる。結果的には分割した資本も資本家が買ってしまい、生産手段と資本の分離が起きただけで、富は分割されなかった。むしろ生産手段すら投機の対象になったのであるが。


また雇用者と労働者という関係で労働運動を起こしても、会社が倒産したり解雇されたら終わりなので、個別の契約条件の向上には有効だが、それ以上の政治的な役割はできないのではという、過去の労働運動を総括する指摘があり、そりゃそうだよなとしか。

以前読書会で組合活動をされている人と話したことがあって、自分は日経新聞を読んでいるのもあってか、知らずのうちに雇用者視点で考えているなと思った。

組合で日々労働問題と向き合っていると、雇用者と労働者というのは根本的に対立関係にしかない敵同士であるという認識にはなるとは思う。

ただ会社に組合があることすら当たり前というわけではない現在において、社内の組合に入って雇用者は敵であるという態度を明確に示すのはなかなか難しいよなと。

どうせここまで来たら会社で失うものもないという状況において、駆け込み寺として独立系のユニオンに入って問題解決を依頼するというのが最近は多いらしいが、それしかないよなという気はする。


それに対し、労働運動より消費者運動のほうが雇用者に対する対抗手段として効果的であるという指摘もある。しかし消費者としての我々は安くて便利で楽しいものには勝てないのである。

協同組合にある種の理想を見出すのも、現代における協同組合の政治的な力の弱さを考えるとなかなか難しい感じがする。消費者団体が政治力の強い国は日本以外ではそれなりにありそうだが。


自分は日経新聞を読んでいる割に資本主義には悲観的で、何が多様なステークホルダーSDGsだよ。そんなこと言ってるの儲かってる時だけで、儲からなくなったらすぐリストラしろって言うくせにと日々むかついている。

しかし交換様式BとCである国民国家と資本主義に代わるシステムはまだまだ見つからなさそうだ。